2017年6月18日日曜日

(K0050) 高齢者の自殺 / 高齢期の死生観(6) <臨死期>


「死生心理学」は、「自殺」を一つの研究領域とし、「自殺予防」を一つの実践領域にしている。
 

それには、二つの理由があるのだろう。

A)   「厚生労働省は世界各国の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)を比較し、日本はワースト6位だとする分析結果をまとめた。先進国の最悪レベル」である。
出典:毎日新聞 2017/05/19
https://mainichi.jp/articles/20170519/k00/00m/040/187000c
図:自殺死亡率
 


B)   「日本では、中高年の自殺率が高く、自殺者全体の6割を占めています。」
出典:自殺対策支援センター 「自殺者リンク」
http://www.lifelink.or.jp/hp/statistics.html
図:男女別・年齢別自殺者数


 
日本は、自殺死亡率が高く、しかも、高齢者の自殺が多い。
高齢期を語るとき、「高齢者の自殺」は、避けられない。

 

自殺に関連する概念を整理しおく

(1)  労働観

(2)  娯楽経験、空虚感

(3)  生きがい

(4)  孤独感 / 実は家族と同居の場合に高い自殺率

(5)  罪悪感

(6)  不幸感

(7)  惨めさ、プライド

(8)  健康問題

(9)  介護する側も

 

<各論>

(1)  労働観

 日本の高齢者に自殺が多いことを聞くと、欧米人は驚くらしい。「一生懸命働いて、リタイアして、さあこれから思う存分楽しむぞというときに、なんで死んでしまうのか?」
 欧米人にとっては、労働は義務であり、リタイアはその義務からの解放であり、義務を果たしてきたのだから、それから人生を楽しむ権利がある。日本人にとっては、労働は使命であり、リタイアは使命の喪失である。

出典:昔、聞いた話
 

(2)  娯楽経験、空虚感

 欧米人は、毎年一ヶ月の休暇をとって、存分に楽しむ。家族で行くと、子どもも大型のバカンスを一緒に楽しむ。だから、リタイアして時間がたっぷりできた時、遊び方に困らない。
 一方、日本人は、ディズニーランドに一泊二日でいく程度だから、リタイアしてたくさんの時間ができても、遊び方を知らない。働きもしない、遊びもしない、そうすると空虚になる。

出典:昔、聞いた話

 
(3)  生きがい

 生きがいを感じていないイコール自殺するとは必ずしも言えませんが、「毎日あいさつをする」「近所と親しくつきあっている」「困ったときに頼れる人がいる」と回答した高齢者については、生きがいを感じていない割合が低下する傾向が見られ、孤立化はいくらか和らぐかもしれません。
 特に、一人暮らしの世帯の男性に、生きがいを感じていない人が多いようである(60歳以上)。

出典:ニッポンの介護学 第88
https://www.minnanokaigo.com/news/N44512806/
図:生きがいを感じていない人の割合


 
(4)  孤独感 / 実は家族と同居の場合に高い自殺率

 「高齢者の自殺が目立っているのは独り暮らしの場合ではなく、家族と同居している場合であって、独り暮らしの高齢者の自殺率おいては全体の5パーセントにも満たないようです。」
 一人暮らしだと、孤独感に襲われ、自殺しやすそうに思われるが、実際はその逆である。何故か。一つ目に考えられることは、「一人暮らしは孤独で、同居していると孤独でない」とは限らない。二つ目は、後に書く。

出典:セラヴィ 「高齢者の自殺…実は家族と同居?」
http://www.celavi.net/2015/07/13/613

 

(5)  罪悪感

 多くの日本人は、「人に迷惑をかけてはいけない」と教えられ、育ってきた。
 歳をとると「子どもに迷惑をかけてはいけない」という思いになる。
 一人暮らしでヘルパーさんに助けてもらう時は、仕事をしてもらっていると割り切れる。自己負担率1割の介護保険を適用すると、1割は自分のお金を出している。
 しかし、同居すると、家族の誰かが介護に関わってくれる。家族だからという理由で、選択の余地もなく、自らを犠牲にしながら無償で介護してくれる。一種の罪悪感を覚えるのではないか。
 同居で高い自殺率なのは、このことが関係しているかもしれない。

 
(6)  不幸感

 「お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください」は、「遺書」に登場するフレーズとしては、定番中の定番と言われているが、誤用である。正しくは「先立つ不孝」。親より先に死ぬのは、親不孝である。しかし、実際に書かれたのは先立つ不幸」が多数派らしい。何故か。
 「不幸だから自殺する」と直結しているのではないか。しかし、生死は自分だけのものではない、自分が死んだら親がどれほど悲しむかということを想像できれば、簡単には死ねないはずだ。
 自分だけを視野に入れるか、周囲も含めて視野にいれるか。若者だけでなく、高齢者においても、同じような構造をもつ。

出典:【先立つ不幸】
http://www.tt.rim.or.jp/~rudyard/gohen015.html

 
(7)  惨めさ、プライド

 介護してもらうことに罪悪感をもつのではないかと書いたが、それ以外の感情もあるだろう。
 介護される自分が惨めに見えて、プライドが傷つけられることもあるだろう。先の「不幸感」が自分の中から出てくるものであると同様に、「惨めさ」「プライド」も自分の中から出てくる。
 そして、周囲から視野が外れ、自分だけを視野に入れていると、「惨めさ」が膨らみ、自己を防衛しようとプライドが強化され、謙虚さを失う。

出典:(K0039)に示した研究会で、このような話があった。


(8)  健康問題

 「自殺の原因・動機として最も多いのは健康問題で、実に5割以上の人が健康問題への不安を原因として自らの命を断ってしまっています。」

出典:ニッポンの介護学 第88回 (前出)
https://www.minnanokaigo.com/news/N44512806/
図:自殺の原因・動機


 
 「死にたい」という自殺願望を抱いている高齢者のほとんどは糖尿病や関節痛、高血圧症などの慢性的な病気を抱えており、自殺をするまで身体的不調を和らげるために入退院を繰り返していたという方が多いようです。

出典:セラヴィ 「高齢者の自殺…実は家族と同居?」(前出)
http://www.celavi.net/2015/07/13/613

 健康問題が「家族に迷惑をかけたくない」を経由して、自殺につながることもあるだろう。

 
(9)  介護する側も

 介護する側のうつも社会問題となっており、高齢の介護者の3人に1人が自殺願望を抱いたことがあるというのが現状です。介護のことで思い悩み、気付いた時には治療を要するレベルの疾患を患っていたというケースも少なくありません。

出典:セラヴィ 「高齢者の自殺…実は家族と同居?」(前出)
http://www.celavi.net/2015/07/13/613

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