これまで、様々な「トライアングル・モデル」を示してきたが、要素が「仕事」「趣味」「生活」「社会参加」の四つであることは、共通である。
NHK-Eテレ「100分de名著」の11月は、ラッセル『幸福論』である。その第2部のテーマは「幸福をもたらすもの」であり、「幸福になる具体的な方法」として、次の五つを挙げている。
(1) バランスのとれた熱意
(2) バランスのとれた愛情と家族(3) バランスのとれた仕事
(4) 私心のない興味 = 興味を持つ
(5) 努力とあきらめ
両者を比較すると、「仕事」「趣味」が共通している。
このシリーズでは、ラッセル『幸福論』を参照しながら(テキストは既に販売されている)、まず「趣味」「仕事」について整理していく。続いて、ラッセルを参考にしながら「社会参加」について整理し、最後にラッセルを離れて「生活」を整理する。
今回は、「趣味」を取り上げる。「趣味で幸福になれる」ということが非常に重要だとラッセルは論じている。ただ、幸福になれる趣味と、幸福になれない趣味とがある。
ラッセルは趣味のことを、「私心のない興味」「ある人の生活の主要な活動の範囲外にある興味」「より公平無私な興味」と表現している。
例えばある分野の専門家が、自分の仕事に関係のない分野の本を読むことは、私心のない興味である。自分の利益や損得に関係なく純粋に楽しめる。
私心のない興味を持つことは、次の三つの効用がある。
(1) 気晴らしになる
仕事で行き詰っても、いったん中断して趣味を楽しみ、また仕事に戻ったときには意外といい答えが出るかもしれない。やみくもに一つのことをし続けるのではなく集中力のバランスをとる。
(2) 釣り合いの感覚を保つ
自分の仕事にばかりかまけていると、見る世界はだんだん小さなものとなり、「世界の提供するこの壮大なスペクタル」を味わう機会を失ってしまう。趣味があると、そうした視野狭窄に陥らない
(3) 悲しみを癒す
例えば愛していた人が死んでしまったとき、人は悲しみに打ちひしがれる。そんなとき、何か自分の気持ちを向ける趣味があれば、心のバランスをとることができるだろう。
以上は、ラッセル『幸福論』から。以下は、私の考え。
(1) ラッセルは、趣味に「興味」という語を当てている。趣味は、外にあって、選んで持ってくるものではない。内から湧き出る興味に関わるものであると、私は解釈した。そのような趣味でないと、幸福をもたらしてくれない
(2) 仕事があっての趣味であり、生活があっての趣味である。趣味と仕事と生活がバランスのようトライアングルを形成することが大切であって、「趣味三昧」は、必ずしも幸福をもたらしてくれない
(3) 仕事を趣味にしてはいけない。生活を趣味にしてはいけない。そのような趣味は幸福をもたらしてくれない
「定年女子インタビュー」で、充実感をもって生きている女性たちの話を聞いてきた。彼女たちは豊かな「趣味」を楽しんでおり、かつ、「生活」も「仕事」(あるいは「社会参加」)もバランスをもって、しっかりと大切にしている。
出典
小川仁志(2017/11)、ラッセル『幸福論』、100分de名著、NHKテキスト(NHK出版)
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