私が大学生のころだから40年以上前のこと、工学部と医学部とを融合させるような研究室があった。そごで聞いた話を今でも覚えている。<A>「高齢者の衰えた筋肉を代行するようなロボットを作ることはできる。でも、それは高齢者の筋肉を弱らせてしまう。だからそのようなロボットを開発していいのか疑問だ」。これは、正しいと思う。使わない筋肉は、あっという間に衰える。私の体験だが、昔、手術して2週間病院でベッド生活をしたとき、驚くほど脚の筋肉が落ちていた。
この問題は、今でも解消したわけではない。
<B>「なんでもかんでもロボット、AIに世話させるべきではないと思っています。それでは、高齢者の自ら動こうとする意欲を奪うことにつながり、ますます寝たきりが増える悪循環になりかねません」。本田幸夫教授(大阪工業大学R&D工学部 ロボット工学科教授)の言葉である。
出典:「ロボットと暮らす未来④ 高齢者を助けるAI 意欲を奪ってはダメ」、産経新聞(2017/07/27夕刊)
<A>と<B>とは、同じようなことを言っているようだが、実は、違う。実際、本田教授は、次のように続けた。<C>「高齢者が、他人の力を借りることなく動くことをいかにサポートするか。装着した人の動きにあわせて稼働するロボットスーツは、身体機能の衰えを回復する上でも有望な技術です。私の研究室でも機会を動かすアクチュエータやセンサー技術をベースに、人にやさしいロボットスーツを学生たちに考案してもらっています。」
40年前には「ロボットスーツ」という言葉はなかったが、それを説明する<B>で述べられた「装着した人の動きにあわせて稼働する」という言葉は、<A>で述べられた「衰えた筋肉を代行するような」とほぼ同じである。40年前には「開発していいのか疑問だ」と言っていた「ロボットスーツ」を、今や積極的に開発しようとしている。
この違いは何故発生したのか、どう説明すればよいのかと考えて思い当たったのが「生活不活発病」という言葉である。
「生活不活発病は、まさにその文字が示すように、「"生活"が"不活発"」になることで全身の機能が低下する病気です。(図1)」。そして、「生活不活発病は、その発端は小さいように見えても、放置しておけばどんどん進行していきます。」「「動きにくいから動かない」→「そのために生活不活発病が起る」→「そのためますます動きにくくなる」という、「悪循環」が起るからです(図3)」「このような悪循環の存在は、生活不活発病を初期段階のうちに発見し、予防・回復をはかることの重要性を示しています」
出典:大川弥生、「生活不活発病に気をつけよう」、障害保険福祉研究情報システム、
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/bf/fukappatsu/
足の筋肉が弱り、寝たままになったら「生活が不活発」になる。しかし、ロボットスーツを着用すれば、「生活が活発」になる。
「ロボットスーツを着用したら動きやすくなったから動く(トイレに自分で行く)」→「そのために活発になる(生活不活発病から回復する)」→「そのためますます動きやすくなる」という「好循環」が起る。すなわち、ロボットスーツによって「悪循環」が「好循環」に変わる。
ロボットスーツは筋肉の動きを増幅するので、負荷は軽いが筋肉を動かすことになる。ベッドに寝ていたら動かさなかった筋肉を、ロボットスーツを着用してトイレに行くたび、少しは動かすようになる。
ただ、現在のロボットスーツは高価である。例えば、
「ロボットスーツHAL® 自立支援用 単関節タイプ」「法人向け5年レンタル」で、「5年総額 ¥8,200,000(税込¥8,856,000)」である。
http://www.daiwahouse.co.jp/robot/hal/lineup/index.html
今は、手を出せないが、技術が進歩し、生産量が増えると、安くなっていくものである。私がロボットスーツを必要とする時期には、手の届く価格になっているかもしれない。
少しは、明るい話題になっただろうか。
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