2018年2月7日水曜日

(K0283)  してはいけない支援(2) 単純なお金の支給 <インクルーシブ社会>


 「単純なお金の支給」は、してはいけない。 三つの事例で検討する。
 

(1) 事例1  東日本大震災 原発被害補償の悲劇

 補償が少ないからではなく、補償が多いことによって多くの問題が発生している。


 避難民に支給される補償金の種類は、以下のとおりである。

1)避難対象区域住民への精神的損害賠償
2)避難対象区域住民への震災前の収入補償
3)避難対象区域住民への土地や家屋への損害賠償金
4)来帰宅困難区域の移住に対する慰謝料

 例えば、2)の収入保障。震災前の年収が400万円だったとすれば、申請すれば全額もらえる。働かなくても貰え、働いて収入を得ると減額される。こんな条件で、働けと言うのが無理だ。お金があって、時間があり余っている。ならば、どうするか。昼間はパチンコをし、夜は風俗に行って豪遊する。それでも使い切れないので、高級車を買って乗り回す。そうでない人もいるだろうが、このようなパターンが多いようだ。その人の人格が完全に破壊してしまう。

 それは本人の自己責任だという声もあるが、父のそのような姿を見ながら育っている子どもたちが心配だ。

 
実態は、例えば以下参照

  【原発事故賠償金】福島第一原子力発電所事故避難者への補償金の現実 ...
https://matome.naver.jp/odai/2142666478226469401?page=2

  避難者は原発損害賠償で1年で「4000万円」手にしている事実 - セミ ...
http://www.eyasu2008.com/entry/2016/09/04/%E9%81%BF%E9%9B%A3%E8%80%85%E3%81%AF%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%90%8D%E5%AE%B3%E8%B3%A0%E5%84%9F%E3%81%A7%EF%BC%91%E5%B9%B4%E3%81%A7%E3%80%8C%EF%BC%94%EF%BC%90%EF%BC%90%EF%BC%90%E4%B8%87%E5%86%86%E3%80%8D%E6%89%8B


 
(2) 生活保護の連鎖、貧困の連鎖

 生活保護の仕組み自体に、生活保護の連鎖を産む要因がある(詳しくは、下に示すサイトを参照)。例えば「貧しい家庭に育つと、学校に行けず、有利な就職ができないから、その子も貧しくなる」という説明をよく聞く。それはありえる話であり、支援するのはよいと思う。しかし、問題は二つある。一つ目はどのように支援するかであり、二つ目はその支援をしたところで生活保護の連鎖も貧困の連鎖もなくならないことである。

 現在は「働かなければ、生活保護費をもらえる」仕組みになっている。働いても給料が少ないと生活が苦しい。しかし働かなければ生活保護を受けられるので、そこそこの生活はできる。働かない方を選ぶ人が増えてくるのは、当然だ。

 「単純なお金の支給」は、モラルハラスメントを誘発し、生活保護費がどんどん膨張している。その被害者は、真面目に働いている納税者だ。しかし、生活保護を抜け出せなくなってしまった人たち、そのような親を見ながら生活保護を選択してしまう子どもたちも、被害者だ。
 

実態は、例えば以下参照

  生活保護 親から子へ世代を超えて受給が連鎖してしまうスキームとは ...
http://news.livedoor.com/article/detail/9800714/

  負の連鎖について | 生活保護を学ぼう
https://seikathuhogomanabou.com/negativechain/

 

(3) 尼崎市の「貧困20歳以下に教育クーポン」

 (K0278)で「貧困20歳以下に教育クーポン」を取り上げ、「説明は難しいが、すっきりしない。何故なのだろう?」と書いたが、今や説明可能になった。

 「保護者や本人が生活保護を受給するなど所得条件」があり、「塾や習い事のほか、保育サービスなど」に用途を限定しているが、要は、生活保護家庭を対象として「単純なお金(クーポン券)の支給」しようとしている。一番大切な、本人が学ぼうとしているかは、何も見ていない。お金でなくクーポン券だし、用途制限しているから良いではないかという意見もあろう。


 しかし、私でも簡単に「貧困ビジネス」を設計できる。

  子どものいる生活保護家庭をターゲットにした塾を開設する
  契約すれば月謝クーポン券1~2万円で、子どもは月2~4回教室にきて勉強を教えてもらえる
  さらに、塾も支援したいので、契約高の2割(2~4千円)を奨励金として現金で支給する。そのお金は自由に使ってよい

 こうすれば、クーポン券を使う当てのない人は来る。使わずに何の価値もないと思っていたクーポン券で、その2割の現金を手に入れられる。子どもが塾に行こうが行くまいが、どうでもよい。塾としては、来ない方が楽だ。来ないのは、家庭・子どもの判断であり、塾にその責任はない。
 

 新しい制度は、生活保護をめぐって盛んにおこなわれている「貧困ビジネス」を助長する。また、クーポンをもらったからと言って、子どもが勉強する気になるか分からない。
 

関連情報としては、

  (K0278)  貧困20歳以下に教育クーポン <インクルーシブな社会>
http://kagayakiken.blogspot.jp/2018/02/k0278-20.html

  貧困20歳以下に教育クーポン 尼崎市、年200人に最大29万円分
http://www.sankei.com/west/news/180118/wst1801180078-n1.html

 
 

 震災の補償をしてはいけないとか、生活保護は必要ないとか。貧困家庭を支援するのは意味がないなどと言っているのではない。「単純なお金の支給」には注意が必要だとだけ言っている。

 「尊厳生」の定義を再録する。

  自立したいと思う人が
  必要な支援を得て
  可能な範囲で自立を実現し、
  本人が「これで良い」としている
生き方


 「尊厳生」の一つ目の要件に「自立したいと思う人」とある。これは「尊厳生」を得るための前提条件である。ところが、この前提条件を「単純なお金の支給」が簡単に壊してしまう。自立心を奪ってしまう。

 その人の幸せを願って支援の手を差し伸べることは尊いことだ。しかしその支援の手が、意図せず、自立意思を粉々に砕いてしまいかねないという副作用があることを忘れてはいけない。結果として本人の幸せを奪ってしまうなら、それは支援ではない。

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