2018年5月15日火曜日

(K0380)  将来の認知症に備える(4)相続対策と認知症 <脳の健康><高齢期の家族経済>

 
【目次】

1.   認知症になると相続対策ができなくなる!
1.1.  認知症患者の法律行為は無効になる
1.2.  認知症患者の相続対策も無効になる
1.3.  法定後見制度では相続対策ができない
 
2.   認知症になったら、もう手遅れ
 
3.   認知症になる前にしておくべき手続き
3.1.  任意後見制度による対策方法
3.2.  家族信託(民事信託)による対策方法
 
4.   認知症と相続対策のまとめ
 

【展開】

1.   認知症になると相続対策ができなくなる!
 
1.1.  認知症患者の法律行為は無効になる
 民法上、認知症を患った人は「意思能力のない者」として扱われます。そして意思能力がない人の契約行為などは「無効」、もしくは「取り消せる」ことになっています。
 
1.2.  認知症患者の相続対策も無効になる
 認知症になると、具体的には次のような行為ができなくなりますが、相続対策にとってはどれも重要な内容であり、事実上、相続対策ができないと言えます。

l  不動産の建設・売却・賃貸契約
l  預金口座の解約、引出し
l  生命保険加入
l  子供、孫などへの生前贈与
l  遺言書の作成
l  養子縁組
l  遺産分割協議への参加
l  株主の場合、議決権の行使
 
1.3.  法定後見制度では相続対策ができない
 認知症になってから利用できるのは法定後見制度です。本人の意思能力が衰えていて資産管理や契約行為ができないときには、裁判所によって選出された成年後見人が、その人に代わって、資産管理や契約行為をします。これが「法定後見制度」です。
 ただし、成年後見人の主たる役割は、本人の利益のために行う資産管理と保全です。資産を売却するにしても、預金を引き出すにしても、すべては本人のために行わなければなりません。
 一方で、相続対策というのは本人(被相続人)の利益ではなく相続人の利益のために行うものです。
 つまり、法定後見制度を使っても相続対策はできません。
 
 
2.   認知症になったら、もう手遅れ
 大変お気の毒ではありますが、認知症になってしまったら、もう手遅れなのです。打てる手段がありません。
 なぜなら相続財産はすべて本人の所有財産なのですから、たとえ家族であっても本人の承諾なしに勝手に手をつけることは許されないのです。認知症になると、その本人が意思を表現できないのですから、もはやどうしようもありません。


3.   認知症になる前にしておくべき手続き
 認知症になる前に相続対策を終えてしまえば問題はありません。しかし、実際は被相続人の多くが「自分は認知症と無縁である」と考えています。その結果、いざ相続対策をしようと言うときには手遅れになっているケースもあります。
 また、相続体制の中には、数年をかけることが必要なものが多くあります。認知症が気になって着手しても、完了するまで認知症になると頓挫します。認知症と認定されたその時から、動けなくなります。これまでやってきたことで役に立つことがある一方、水泡に帰すこともあります。それどころか中途半端で止めてしまうために大きな損害を被ることもあります。
 
3.1.  任意後見制度による対策方法
 後見制度には、先に紹介した「法定後見制度」のほかに、「任意後見制度」があります。任意後見制度は法定後見制度と異なり、後見人の意思で被後見人を選出し、その被後見人に財産の処分を託すことができます。したがって、任意後見制度であれば相続対策ができるのです。
 任意後見制度を利用するには、後見人と被後見人候補との間で「任意後見契約」を締結する必要があります。そして、後見人に認知症の症状が見られた際に、被後見人が資産管理・運用・処分をすることになります。
 なお、任意後見制度を活用するには、後見人の意思能力があるうちに限られます。
 
3.2.  家族信託(民事信託)による対策方法
 民事信託において、委託者(受託者に財産を委託する人)と受益者(運用・処分によって得た財産や利益を受け取る人)が家族である場合、もしくは受託者(受託内容に従い財産を運用・処分する人)も含めた三者とも家族である場合を「家族信託」と言います。
 そして家族信託でも相続対策ができます。たとえば、委託者:父親、受託者:長男、受益者:長男を含む家族として、毎年少しずつ、父親の財産を家族に贈与することができます。
 家族信託を利用する場合には、その委託内容に財産管理・運用・処分方法を明らかにしておきます。そして、効力発揮後は契約内容に従って、受託者が相続対策を実行するだけです。
 契約の終了時期もあらかじめ定めます。契約期間内であれば、本人(委託者)が途中で認知症になっても、あるいは、亡くなっても、契約は有効であり受託者が契約通り実行していきます。
 なお、家族信託も「認知症」と診断される前に契約をしなければ無効になってしまいます。
 

4.   認知症と相続対策のまとめ
 認知症になってからでは相続対策がほとんど全くできません。そこであらかじめ「任意後見制度」か「家族信託」によって対策を講じておくことが望まれます。これらの手続きで不明な点があれば相続弁護士などの専門家に相談をして、一緒に対策を進めると良いでしょう。
 


注: 実際の問題に対処するときは、必ず専門家に相談してください。ここに書いていることによって損害を受けても、補償できません。
 


<出典>
https://相続弁護士カフェ.com/souzoku-11511.html
添付図も、このサイトからの転載。


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