2018年12月8日土曜日

(K0586)  認知症の人の社会認知の障害への対処 / 小川敬之教授(3)

 
(前回からの続き)
 

 「心の理論」というのがあります。
 
===== 引用はじめ
◆他者の心の動きを類推する機能の成長が問題
心の理論:Theory of Mind (ToM)
 心理学で言うところの、
  ・相手の心の中を推察する
  ・他者が自分とは異なる意識を持つと考えることができる
能力のこと。 他者の心を推測・想定する能力。 読心力。
出典:心の理論/志向意識 心を推察する能力:進化研究と社会
 
◆健常児でも4歳前後にならないと他者の心は類推できない
「心の理論」の入口に到達するのに、健常児でも4年前後に及ぶ期間を要する。
出典:心の理論
===== 引用おわり
https://matome.naver.jp/odai/2138369951114397601
 

 サン-アン課題が有名です(添付図参照)。

===== 引用はじめ
サリーとアンのテスト(自閉症者は思いこみを理解できないことを示すテスト)

(内容)
サリーとアンの二人が部屋で遊んでいる。サリーは、自分のおはじきをかごの中に入れて部屋を出る。アンは、サリーが出ていった後、そのおはじきを自分の箱の中に隠す。
 「部屋に戻って来たサリーは、まず、どこをさがすでしょうか?」
というのが問題である。

(結果)
自閉症者の約80%は、サリーは事実を知らないから、最初にかごを開けてみるということが予測できずに、「アンの箱をさがす。」と答えたのだという。一方、精神年齢ではむしろ調査対象の自閉症者よりも低かったというダウン症候群の子供達の誤答は20%に過ぎなかったという。

===== 引用おわり
 

 文中にあるように自閉症児の研究に使っていましたが、最近では認知症者の研究に使われているようです。でも、私(藤波)は違うと思います。


 認知症の人が昔覚えた三段論法を今でも覚えていたとしても、短期記憶が侵されていると、使えないはずです。三段論法とは“推理のしかたの一種で、三つの判断の組合せから成る形式。例、A「動物は生物だ」B「犬は動物だ」という判断から、C「犬は生物だ」が導ける”です。

 短期記憶を喪失した人は、B「犬は動物だ」と認識した時には、既にA「動物は生物だ」を忘れているので、三段論法を使えません。しかし、サン-アン課題で自閉症者が間違えるのは、逆に過去の経緯を知っていてそれに囚われるからです。
 

 認知症の人は、短期記憶を失っているが故に、時系列で理解しなければならない「文脈」(文章の中での文の続きぐあい。また、文の中での語の続きぐあい)を理解できないのです。
 
 それを「理解しろ」と言うからおかしくなってしまいます。通じないなと思ったら「仕切り治す」こと。通じないものは通じないのであり、認知症の人を責めても悲しませるだけです。
 
 瞬間、瞬間については考える力を残している人が多いようです。過去の記憶を失っているのに今を考える力が残っているから、混乱するのでしょう。
 
 記憶から失われた過去は無いものとし、残された「今考える力」に向かって「合い(愛)の手」を差し出すことにより、認知症者とのコミュニケーションは随分改善される余地があるはずです。
 


<出典>
  講演を聴講したのは、
小川敬之、「ひとつ ー少子高齢化・認知症・働くこと・生きる事ー」、第61回臨床死生学・老年行動学研究会(第61回臨床死生学・老年行動学研究会)、大阪大学 中之島センター、2018/12/05
研究会については、http://rinro.hus.osaka-u.ac.jp/info.html
 
  参考になる文献としては、
「認知症の支援 - 和包括的視点での多職種のかかわり方 - Dementia Friendly community
http://www.seiai-riha.com/pdf/170321_innaibenkyou01.pdf
(注)所属が「九州福祉保健大学」となっているが、現在は「京都橘大学」教授

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