2019年5月28日火曜日

(K0758) JR東海共和駅・認知症患者列車事故事件裁判(1) 概要と解釈 <脳の健康>

 
 以下、湊総合法律事務所のホームページから引用し、整理しなおしました。
 

1.   JR東海共和駅・認知症患者列車事故事件の概要
1.1.  死亡事故が発生した
1.2.  民事事件になった
1.3.  裁判の帰趨が注目された
 
2.   判決(720万円→360万円→0円)
2.1.  第一審の名古屋地裁(720万円)
2.2.  控訴審の名古屋高裁(360万円)
2.3.  最高裁(0円)
 
3.   最高裁判決の内容
3.1.  関係法令にいう「配偶者の義務」は認知症患者(責任無能力者)に代わって第三者に損害賠償すべき「法定の監督義務」には直結しない
3.2.  「法定の監督義務者と同視できる者」は賠償義務を負う
3.3.  「法定の監督義務者と同視する」ために必要な基準
 
4.   この判決の結論が、今後発生するかもしれない認知症患者による加害事故にすべて直ちに当てはまるわけではない
4.1.  本件では、妻・長男とも責任を負わない(監督義務者とは同視できない場合)
4.2.  妻や息子などが責任を負うこともある(監督義務者と同視できる場合)
 


【展開】
 
1.   JR東海共和駅・認知症患者列車事故事件の概要

1.1.  死亡事故が発生した
 2007(平成19)年127日、東海道本線共和駅近くで、認知症患者Aさん(91歳 要介護4、認知症高齢者自立度)が線路に立入り走行してきた列車にはねられて死亡した事故がありました。

1.2.  民事事件になった
 JR東海がAさんの妻(85歳 要介護1)と長男に対して、振替輸送費等の損害賠償を請求する訴訟を提起して民事事件になりました。

1.3.  裁判の帰趨が注目された
 社会には認知症患者を抱える家族は、たくさんいらっしゃいますから、この裁判の帰趨は、社会から耳目を集めることになりました。
 


2.   判決(720万円→360万円→0円)
 JR東海は、認知症患者のAさんの妻と長男に対して約720万円の損害賠償請求をしました。

2.1.  第一審の名古屋地裁(720万円)
 民法714条に定める監督義務者に該当するとしてその全額の支払いを命じる判決を出しました。

2.2.  控訴審の名古屋高裁(360万円)
 長男に対する請求は認めず、Aさんの妻のみが監督義務者に該当するとして、360万円の損害賠償義務を認容しました。

2.3.  最高裁(0円)
 妻と長男両方についてJR東海への損害賠償義務を否定しました。
 


3.   最高裁判決の内容

3.1.  関係法令にいう「配偶者の義務」は認知症患者(責任無能力者)に代わって第三者に損害賠償すべき「法定の監督義務」には直結しない
 事故当時の精神保健福祉法や、民法上の成年後見人の身上配慮義務は、現実の介護や認知症患者に対する行動監督までは求めていないし、夫婦の協力扶助義務は抽象的な夫婦間の義務であって、第三者との関係で配偶者として何かしなければならないものではない。

3.2.  「法定の監督義務者と同視できる者」は賠償義務を負う
 法定の監督義務者に当たらない場合でも、具体的な事情の下で「認知症患者の第三者に対する加害行為の防止に向けた監督を行って、その監督を引き受けたと認められる者については、法定の監督義務者と同視することができる。」

3.3.  「法定の監督義務者と同視する」ために必要な基準
 「認知症患者を実際に監督している」もしくは「監督することが可能かつ容易」であるなど、「公平の観点から認知症患者の行為に対する責任を問うのが相当といえる状況にある」といえること
 

4.   この判決の結論が、今後発生するかもしれない認知症患者による加害事故にすべて直ちに当てはまるわけではない

4.1.  本件では、妻・長男とも責任を負わない(監督義務者とは同視できない場合)
 妻自身も85歳と高齢なうえ要介護1の認定を受けており、長男の補助を受けて介護していた、という事実を認定。Aさんの第三者に対する加害行為の防止に向けた監督を行って、その監督を引き受けたと認められる者ということはできず、法定の監督義務者と同視できない。
 長男についても、Aさんと同居しておらず接触も少なかったとしてやはり法定の監督義務者とは同視できない。

4.2.  妻や息子などが責任を負うこともある(監督義務者とは同視できる場合)
 仮に本件で、妻がもっと年齢も若くて元気で、要介護認定も受けておらず、密接にAさんの介護を行っていた場合、法定の監督義務者と同視されていた可能性があり、全額の損害賠償責任が認められていた可能性があります。
 二世帯住宅を作って、息子家族が認知症の親を介護しながら生活しているというパターンは日本のあらゆるところで存在しています。このような場合には、最高裁判決に立ったとしても、息子夫婦が監督義務者と同視されて損害賠償請求されてしまうということだって考えられるのです。
 

 続く。
 

<出典>
湊総合法律事務所のホームページ
https://www.kigyou-houmu.com/post-3260/
 
写真は、
長男が語る「認知症鉄道事故裁判」
https://www.min-iren.gr.jp/?p=35622

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