※ (K0758)からの続き
「今回の最高裁の判断は、認知症患者を介護する家族らの現実を踏まえたもので、妥当なものではないかと思います」(前出:湊総合法律事務所のホームページ)
https://www.kigyou-houmu.com/post-3260/
世間では、最高裁判決は「優しい判決」だと思われているようだが、本当は違う。
(1) 認知症患者の起こした事故により、全額の損害賠償責任を家族が負うことがある
(2) 加害者家族に優しい判決は、被害者には優しくない・過酷な判決である
(3) 被害者自身が加入する保険による救済には、条件がある
(4) 加害者家族に損害賠償責任が認められても、賠償金を受け取れないこともある
【展開】
(1) 認知症患者の起こした事故により、全額の損害賠償責任を家族が負うことがある
前出。再録
①
妻が年齢も若くて元気で、要介護認定も受けておらず、密接に夫の介護を行っていた場合、法定の監督義務者と同視されていた可能性があり、全額の損害賠償責任が認められていた可能性があります。
②
二世帯住宅を作って、息子家族が認知症の親を介護しながら生活しているというパターンは日本のあらゆるところで存在しています。このような場合には、最高裁判決に立ったとしても、息子夫婦が監督義務者と同視されて損害賠償請求されてしまうということだって考えられるのです。
(2) 加害者家族に優しい判決は、被害者には優しくない・過酷な判決である
加害者に賠償責任がない場合、被害者は救済されない。JR東海共和駅・認知症患者列車事故事件裁判においては、被害者はJR東海である。JR東海に落ち度がないにも関らず、加害者が認知症であったため、請求した720万円の賠償金を受け取れず、丸損である。
加害者が個人であると考えると、これは「優しくない・過酷な判決」であることが分かりやすい。加害者が認知症であれば、どんなに多大な損害を受けようと、何の損害賠償も受けられず、泣き寝入りを強要される判決である。立場を変えると、認めがたい、とんでもない判決である。
(3) 被害者自身が加入する保険による救済には、条件がある
加害者からの救済がない場合でも、被害者自身が加入する保険(生命保険・障害保険)があれば幾分救われる。しかし、経済的余裕のない人はそのような保険に加入することは難しく、この救済については、救済対象者が経済条件で限定される。
(4) 加害者家族に損害賠償責任が認められても、賠償金を受け取れないこともある
例えば、裁判で勝って賠償金をもらえることになっても、即金ですぐ払えないこともある。相手に支払い能力がないと、その後ももらえない。例えば、最近話題になっている「8050問題」。収入の無い50歳の息子が80歳の母の年金で暮らしている状態で、その母が認知症で加害者になったとする。裁判で息子の賠償責任が認められても、支払われるとは思えない。おそらくこの場合、被害者には実質、何の補償もない。家族の中で稼いで家計を支える人が巻き込まれても、何の救済もない。
続く
<参照>
講義 土井池良夫、認知症『神戸モデル』について、令和元年度第1回神戸市民後見人候補者継続研修、神戸市成年後見センター、2019/05/27
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