【 読書 ・ 老人力 】日本人は、食後にお茶を一口、ゆっくりと飲み込んで、「……あ―……」と溜息をつく。一日の仕事の終った後、すべて終ってやれやれというので、とりあえず一杯、一口飲んで、「……っあ―……っ」と息をつく。老人力だ。
●お茶とため息
食事というのはじつは大変な作業で、外界のものを体内に取り込むわけだから、美味しいから夢中になっているとはいえ、お腹にとってはほとんど重労働だ。
だからそれが終り、箸を置いてお茶となるとホッとする。口の中を舌の先でいろいろと整理整頓しながら、お茶を一口、ゆっくりと飲み込んで、「……あ―……」と溜息をつく。
溜息である。こういうときの溜息って老人力ではないか。
●ビールとため息
ビールは食後ではなくむしろ食前だけど、でも一日の仕事の終った後がほとんどで、すべて終ってやれやれというので、とりあえず一杯、一口飲んで、「……っあ―……っ」と息をつく。
かなり積極的な溜息である。ここにもお茶と同じように老人力が潜んでいるんじゃないか。
●国際比較
以前ロンドンのパブに行ったとき、トレンチコートを着たビジネスマンたちがみんな立ってビターを飲んでいたけど、「AA……」というような、溜息的な音声は聴かれなかったと記憶する。
西洋人が食事のあとコーヒーを飲んで、やれやれ的な感じで、「AA……」なんて溜息をつくだろうか。どうも想像できないのである。西洋人だって挫折したり、恋に破れたり、人生に絶望したりしたときには溜息をつくだろうが、食事のあとのお茶ぐらいで、「溜息なんかつきませんよ」といわれるんじゃなかろうか。
そこのところに溜息の質の違い、つまり老入力の含有の有無があらわれていると思うのだけど、どうでしょう、だめでしょうか。
前回は、
(K1515) コセコセ力 を流してくれるのが老人力/ 「 老人力 」(9)
http://kagayakiken.blogspot.com/2021/06/K1515.html
ため息については、
(K1494) 「 あーあ…… 」は、 確信犯的老人力 / 「 老人力
」(6)
http://kagayakiken.blogspot.com/2021/06/k1494-6.html
<出典>
赤瀬川原平、「老人力」、筑摩書房、P.50 ~ P.52
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